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本と、朝ごはんと、私の好きなもののハナシ

きりこについて/西加奈子

私はいつも本屋さんで面白そうな本を手にとって
パラパラ読んでから買うかどうか決めるのですが、
この本はファーストラインで心を掴まれてしまいました。
 
きりこはブスである。
 
こんな衝撃的な始まり方をする本を私は他に知りません。
 
大抵の本の主人公はなんやかんやで可愛い。
困難に直面したり八方塞がりでどうしようもない感じになったりしても、
なぜかうまくいって最終的にはハッピーエンドというのが主流だと思います。
そこで説かれているのは諦めない心とか、人を信じる気持ちとかなんとか…
 
でもそういう本って共感しにくい。
こじらせ女子的には、だって主人公可愛いもん、そりゃうまくいくやろ。
って思ってしまう訳です。
 
そんな私の前に現れた、主人公が可愛くない話。
しかも可愛くないどころかブスです。
買わないわけにはいきません。
 
両親の愛を一身に受けて育ち、自分を可愛いと信じて疑わず、
カリスマ的な魅力でみんなのリーダーだったきりこは小6のときに、
好きな男の子に「ブサイク」と言われて初めて周りと自分を比べて、
自分はブスだと気づきます。
そしてそのまま引きこもりになっちゃう。
 
自分の顔に対する自意識の目覚めという瞬間が誰にもあると思うんですよね。
自分は可愛いか可愛くないか、かっこいいかかっこよくないか。
私の場合は小2でした。早いですね。
当時からこじれてたと思います。
 
同じ小学校の男子から「ブサイク」って言われて、
自分のことをブサイクだと思う人がいるという事実に初めて直面しました。
多分彼らはもう覚えてないと思うし、私にこう言った時だって
何も考えてなかったと思うけど、初めて他人から受けた
自分の外見に対する厳しい批評は当時の私にとっては大事件でした。
 
これ以降自分の心に刷り込まれた「ブサイク」の烙印はなかなか消えず、
他人からの「可愛い」を、
「この人はなんでそう思うんやろう?私可愛くないのになんで???」
というなんとも失礼な考え方で片付けてしまうようになりました。
 
外見の自信のなさって他のことに対する自信も奪いがちです。
たかだか他人からの意見で自分の可能性やチャンスを不意にするのは
もったいないと思うけど、気にしちゃうんですよね。
 
そういう時は、趣味でも勉強でも、本当になんでもいいから何か他の部分で頑張って、人に誇れる部分を作るのって大切だなって思います。
そのちょっとした自信から、自分の外見の捉え方も変わってくると思うからです。
 
私の場合は、「可愛さを武器にこの世を渡り歩くのは無理だから、
代わりに人よりも優れた部分を作ろう」と常々思ってました。
だからこそ「これをやってみよう」「あれを極めよう」という
モチベーションが生まれたし、そのおかげで
自分が今いる位置までやってこれた気がします。
 
自分がブサイクだって小さい時から思ってなかったら、
きっと今の自分ほどのバイタリティはなかったんじゃないかなあと
思ったりもします。
 
こんな風に勉強やスポーツを頑張ったり、趣味を広げたり、おしゃれしたりして、
鎧や武器を装備するかのごとく自分の付加価値を上げていくことで
問題の自分の顔も昔ほど嫌いじゃなくなりました。
 
 
でも、やっぱり心のどこかで自分の顔に自信が持てないでいるというのも事実。
 
 
だから、引きこもりから脱却した後にきりこが、
容姿である「容れ物」と性格である「中身」の両方を合わせて人間なんだと気付き、
両方があってこそ完成するひとりひとりの個性を大切にして、
いろんなことで傷ついた人たちを助けている姿にとても心が打たれました。
 
 
どうしたって周りの声は耳に入ってきちゃうし、
それを知らない間に内面化してしまったりもして、「ブサイク」という呪縛から
逃れるのは本当に難しいと思うけど、一生付き合って行く自分の顔だから、
嫌いじゃなくなる、全部受け止めて好きになるのって大事だなあというか、
そうじゃないと人生もったいないなあって思いました。
 
 
なんせブサイクな女の子が主人公なので話の展開にこじらせ女子の気に触るような嫌味がないし、読み終わったら「私も頑張ろう」って素直に思えるので、元気がない時、落ち込んでる時にオススメの本です。